ニコリ。笑ったのは、私。目の前の彼は表情を変えずじっと私を見ている。

こんなとこ他の人に見られたら大騒ぎになるだろう。誰が見たってキスする5秒前。


「じゃ、戻るから」


今度こそ悠里くんから離れる。

学校の中で一番居心地が良いはずの中庭を、私は逃げるように後にした。悠里くんが呼び止めることはなかった。










『あんたがいると、悠里くんが不幸になる』


彼の取り巻き達が私を睨みつけた。悠里くんが進路指導室に呼び出された直後の出来事。


最近、私を連れ戻しに行く口実で授業にでないことが増えたからだと彼女達は言った。

単位が取れないなんて大げさなことは言わないけど、内申に響くのは間違いない。有名大学合格を期待されている悠里くんには重大な問題だった。


彼女達に怒鳴られて私はやっと、気づいた。


悠里くんと私は、生きているステージが違うんだってことに。