「……腕、痛いんだけど」


諦めた私が悠里くんの前に座る。解放された腕は、微かに感覚を失っていた。



2人の間を吹き抜ける風が、一瞬、強くうねった。



悠里くんは私が喋り出すのを待っている。この沈黙が、私は苦手だ。


「別に何もされてないよ……ただ、私が、悠里くんといたら辛いってだけ」

「……辛い?」

「そう。悠里くんといると面倒なんだよね。比べられたりするのが」


嘘じゃない。
実際、教師の口から“高槻と幼なじみだとは思えない”とか意味分かんないことを言われることはすごく嫌だ。(幼なじみだから何だって言うんだ)

だけど、こんなことで避けてるわけじゃない。本当の理由は、もっと厄介なこと。


「本当に、そんなことで?」


探るように私の目を真っ直ぐ見つめる悠里くん。視線を逸らしたら、嘘がバレる。


「疲れたんだ、悠里くんの“幼なじみ”でいるの」

「……なに、それ」

「と、言うことで!もう私に付き合ってくれなくていいから」