雨が降っていた。


しとしと降り続ける雨。

街中の一角に、目立つ黄色のかたまり。

黄色のかたまりは、レインコートを着たあたしだ。

店じまいした軒先にしゃがみこんで、あたしは雨で濡れた歩道をぼんやり見つめていた。

時折、カワイイ小花がいっぱいプリントされたレインブーツに目をやりながら、ブーツにある雨粒をながめる。

ひんやりした風が、首筋にあたると、思わず、ブルッと体が震えた。



寒い。


雨は降ってるし、風は冷たい。

なんであたし、こんな寒いトコロにいるんだろう。

考えたけど、わからなかった。

レインコートの襟を寄せて、ぎゅっと締めた。

ちょっとは暖かくなるかな?

ぼんやり眺める足元に、違う足が入ってきた。

焦げ茶色の革靴。

爪先がとがっていた。

顔を上げると、黒いスーツを着た男の人が、紺色の傘を手に立っていた。

「カナ、帰ろう」



このヒト、あたしを知ってるの?



「ここは寒い。うちに帰ろう」


あたしをカナと呼ぶヒトは、優しい顔で手を差し出した。




誰…?




あたしは知らない。


だけど、不思議と恐怖は感じなかった。