2月、風は冷たく、空からは雪ぼうず達が舞い降りて、街を白く染め上げる。
だが、街にはピンクのハートが飾られ、ふんわりと甘い香りに包まれている。
女の子達はウキウキと浮かれて、嬉しそうに笑いあい、
男の子達はどこかソワソワと、落ちつかない様子でそれを見守っている。

バレンタイン・デイ。

大切な人に、チョコレートをプレゼントする日。

赤谷コウジは、サッカーボールを蹴りながら学校から帰っていた。

「今日、バレンタインだろ?母さんがチョコケーキ作るってさ、食べに来ないか?」

隣を歩く、親友青蔵トシヤがそう言うと、コウジは目を輝かせてボールをキャッチした。

「ああ!
いいよな、バレンタイン。なんか知らないけどチョコもらえて。」

と、コウジのランドセルが勝手に動き出したかと思うと、手のひらサイズのクマが勢い良く顔をだした。

「チャーリー。なんだよ?急に…」

「コウジがなんでバレンタインにチョコレートをもらえるか知らないなどと言うからだ。」

「チャーリーは知ってるのか?」

トシヤの問いにチャーリーは小さい手で小さい胸をドンっと叩いた。

「当たり前だ。私はおかしの国の王子だぞ。
バレンタインにチョコレートをあげるのは、

チョコレートが甘いからだ!」

チャーリーは、自慢げに胸を張って、高らかにそう言った。

「へぇ~そうなんだ。」
「コウジ…お前…」

素直にチャーリーの話しを信じるコウジの目にトシヤは何も言えなかった。