近くに横付けしてあった車に乗り込み
駅前大通りまで出た


空は、どんよりとした曇り
雨でも降りそうだ




「 …羽根生えてるのに車って
その意味が判らん 」



乗り込んだ助手席
小声で言ってみる




「 皆さんは、生えてないじゃないですか

それに今時期、寒いんですよね 」



「 …海を渡らない鴨みたいだな 」



藤本が、ハンドルを回しながら笑う






「 …しかし、どこ行くんだ


――― この状況で 」




「 …どうしましょう 」




「 え… ええっ?!
何なの?! この人達!! 」







スクランブル交差点

信号で止まった俺達の車の周りに

―― リルカと一緒にいるせいで
思いきりよく見える、
額のシールは灰色で、
文字は全て『 糸 』



囲むように、
ゾロゾロ寄って来た人間達は
どこか血の気が無く、無表情だ




「 …操られてるのか 」



「 ゾンビじゃないのが厄介ですね 」



「 イヤアアア!!
張り付いて来たアアア!! 」



キャーキャー叫ぶアキラ、
顔面蒼白のリルカは
抱き合ったままで
お互いの手を、必死に握りあっている



進む事も、バックする事も出来ず
藤本は何度か、クラクションを鳴らした



すると
少し煩そうに、周囲の青白い顔が
眉をしかめる



「 …… 反応してるぞ 」