聖は微笑むと、
「春ちゃん」
と、言った。

その呼び方に、一瞬だけ僕の心臓がドキリと震えた。

――春ちゃん

僕のことをいつもその名前で呼んでいたのは、
「――春、ちゃん?」

不安そうな顔をした聖が僕の顔を覗き込んだ。

いや、聖だ。

一瞬でも、幼い頃に亡くなった実母と重ねてしまった自分を否定した。

僕のことをそんな風に呼んでいたのは、実母だけだったからだ。

「――何だ?」

僕は笑って、ごまかした。

「嫌だったのかなと、思って…」