「元からこの話は、父に勧められてのことだったんです。

正直に言うなら、あなたとその気はなかったんです。

あなたにも心に決めた女性がいるみたいですし、私もそうですし」

僕は奈々恵の話に耳を傾けた。

「だからお互い、この話はなかったことにしましょうと言う訳で」

そう言った奈々恵に、
「いいですよ」

僕は言い返した。

「なかったことにいたしましょう」

そう言った僕に、
「ありがとうございます」

奈々恵は頭を下げた。

別に、下げられるほどのことではないけど。