「「………………」」


……名前、呼んじゃった。


その事実と最終的に奴が近づいてきた距離に

また一気に顔が赤くなる。

もう湯気でもでそうな感覚。


私が恥ずかしさで

口があわあわとなっているのが
おかしかったのか

目の前の彼は
ふっと口を緩め無邪気に笑った。


「……本当もう可愛すぎだから」


その言葉のすぐ後、

さっきからずっとコイツの長く細い指に絡んだままの私の髪の毛は

軽くくちづけされてから、さらっとほどかれた。


「――なっ!!」

髪とはいえくちづけなんてされたことにびっくりして

自分の肩が跳ね上がったのがわかった。


「これからはそれでよろしく」

慌てて少し変な私の様子に笑いながら

奴は私の頭をくしゃくしゃと撫でる。


「もう、今日本当近いっ」

私はこれ以上触られるとおかしくなっちゃいそうで

慌てて席を立った。


「ちなみに、今だけ呼んで解放されようと思って

次からまた『アンタ』とか言いだしたら、

せっかく仲良くなれたみんなに、『言っちゃう』からね」


席を立ってる私の方が

物理的に上からコイツを見下ろしてるはずなのに

この余裕そうな目は勝ち誇ったように

私を見ていた。