「………………」
今だけでも呼べばいい話なのに
口が動かない。
なにこれ、心臓が口から飛び出そう。
「呼ばないともっと近づくけど?」
そう言われて
やっと口が少し開いた。
これ以上近いのは恥ずかしくてダメだ。
観念して名前を呼ぼう……と思ったんだけど、
これ以上近づかれるのは
『恥ずかしい』んであって、
前みたいに『気持ち悪い』って思ってない自分に気づくと
最近ずっと抱えてたあの正体不明の感情が
ぶわっと心の中で溢れてくるようで顔が熱くなってくる。
「……何、香乃子ちゃん、近づいて欲しいの?」
しびれをきらしたのか
桃井稜佑はさっきみたいに
またゆっくり顔を近づけ始めた。
え、待って、
無理、顔熱いし、心臓の鼓動やばいし、
待って、待ってよ!――
「香乃子ちゃ「ま、待って、稜佑!!」