「……あ、ううん。
偶然持ってただけ、だから。
よかったら、使ってください」
と言って私は鞄からソーイングセットを取り出す。
「ありがとう!」
彼女は受け取ると
私に向かって笑いかけてくれた。
――こんな優しい表情を
誰かにしてもらったのは、
本当に久しぶり。
感動して胸がじーんとなっていると
再びクラスが賑やかになった。
多分、問題が解決したから
みんなの興味が収まったんだろう。
「後昼休みも10分あるし、
次は移動じゃないし、
今それ借りて直しちゃえば?」
と桃井稜佑が言うと、
「うん。……いいかな?山田さん。」
と未だ優しい笑顔を
向けてくれている彼女に言われ、
私はうんうんと首を縦に振った。
その様子が面白かったのか
桃井稜佑は「ぷっ」と笑っていたけど、
私は目の前で起きてる交流に胸が高まり、
もうコイツのこういう行動はどうでもよくなっていた。