「おぉ、悪い」
少しだけ肩を上下させた桃井稜佑が謝る。
……この人、走ってきたの?
そこまでして私をからかうのを
楽しんでるんだと思い
さっき少し落ち着いたのにまた心拍数が上がりイライラしてくる。
私はこぼれた中身を拾うと、
珍しく本当に少し反省しているらしい彼も
拾う動作を始めた。
2人で全て拾い終わると、
「ん、これ。ごめんねって」
彼は眉を下げて落ちたものを渡してきた。
「……どうも」
私は適当に返事をして拾ってもらったものをしまう。
鞄の中がぐちゃぐちゃになってしまい整えてると
「……これはなんなの?」
と話しかけてきた彼に顔を向けた。
彼は手のひらに
その手の大きさとは不釣り合いの小さいコンパクトを持っていて、
それは私の鞄に入っていたソーイングセットだった。