野次馬がいても、フォローする。
そう決めたはずだったのに、
この静寂をやぶって彼にかけるべき言葉が見つからない。
稜佑も驚いたように立ちすくみ、
どうしていいかわからないみたい。
廊下のざわつきとは間逆に
静かな教室。
どうしよう、何か言ったほうがいいのかな。
でも悪目立ちして、
稜佑がまた変な風に言われたら嫌だ――
「……どいてもらえる?
邪魔なんだけど」
どうしようか混乱する私に届いた声は、
「水野……」
水野くんのもの。
「そうだけど。
何?数日でクラスメイト忘れた?」
びっくりする稜佑に少し毒々しく接する彼は
いつもと何も変わらない。
「いや、違うけど……」
どもる稜佑に
「そう、別に何でもいいけど」
淡々と接し、
稜佑の横を抜けると自分の席へ。
そうだ、私もいつも通り接すればいいんだよね。
私はみんなが稜佑を凝視する中、
何も無いように自分の席へ行き鞄を下ろす。
それに気づいた美奈や紗依、茜も
いつもと変わらずなんでもないことを話しだした。
すると段々教室内もいつもの空気になっていって。
無理に声をかけたり、注目したり、
そんなことしなくていいんだ。
私は教科書なんかを鞄から出して、
美奈たちは話しながらも、
横を通った稜佑に
「おはよー」
と声をかけていた。
あ、いつもみたいな風景だ。
そう思って自分がほっとしたのに気がついた。