「「………………」」


ほとんどの人はもう帰るなりして
人気(ひとけ)が減った静かな廊下で

時間が止まったように黙る私。


何か言いたいのに、

何も言い出せない。


掴まれた手首が熱くて

「離して」そう言おうとして

先に向こうが口を開いた。


「……やっぱ香乃子ちゃんて俺のこと好きでしょ?」




――――よし、帰ろ。



さっきまでの正体不明な熱が一気に引くのを感じた。


きっと怒りを超えて悟りの境地に入ったんだわ。


掴まれてた手首を振って

奴の手から解放されると

熱を持っていた分、

すぅっと涼しくなったのを感じた。


「えっ、ちょっと、香乃子ちゃん!?」


慌てる彼を尻目に私は階段を再び降り始めた。