「……わからない、
言っていること、何ひとつわからない。
あなたがそう思うのは勝手ですけれど、
強要されても困ります」
弱々しく麗佳さんはそう言う。
「もちろん、強要なんてしない。
ただ、一面しか見えてないあなたから見える私と稜祐は
ただのほんの一部分ですよってことかな」
言い終わって、
下唇を噛む彼女を横目に
私は歩き出す。
「だから、わかんないわよっ」
悔しそうな声が後ろからボソッと聞こえた。
しょうがないと思う。
彼女の価値観を構成してきた環境もある。
いつか、その環境も受け入れてくれる、
あなたの色んな表情を見せられる人があらわれるといいね。
心でそんなことを思っていた。
完全に余計なお世話だけどね。
「きっと妹さんは愛じゃなくて
固執、なんだろうね」
歩きながら美奈が少し悲しそうにつぶやいた。
「『愛」かぁ……難しいな」
首をかしげる紗依に答える。
「そうだね、これからたくさんの人に出会って
自分なりな何かを見つけていくんだろうね」
夕日に照らされた校舎がキラキラと輝いて見えた。