「人も避けたし、そろそろ帰ろっか。
……香乃子?」
美奈が腰を上げる。
しばらく考え込み無言だった私は
その言葉で現実に戻ったようにはっとする。
「う、うん!
ごめん。考え事してた」
へらっと笑って返事をすると
紗依に心配そうに顔を覗き込まれる。
「あんまり考えすぎちゃよくないよ?
香乃子に悪いところがあったわけじゃないし……」
心配をかけまいと
見つけたての本当の気持ちを口にする。
「ああ、違うの!
さっきのことじゃなくてね。
私の気持ち。
感じてた気持ちと、
頭で解釈してた気持ちがね、違ったの。
私が『救う』と意図して稜佑を無責任に肯定するのは
それは愛でもなんでもなくて押し付けでさ。
わかったの、
稜佑にはただ、笑っていてほしいんだ。
それが私の気持ちだなって」
言い終わって立ち上がると、
ぽふ、と美奈が私の頭を撫でた。
手はぬくもりに包まれ、それは紗依の手による熱だった。
その後何かを言ったわけでも、
言われたわけでもなかったけど、
胸がじーんと温まる。
すとん、と胸に何かがはまった気がした。