稜佑……。

段々近づく彼から、手が伸びたと思ったら、


もうひとつ、手のひらが見えて。


「香乃子ちゃん!!!」

真正面に居たはずの稜佑の声が

片耳からのみはっきり聞こえた。


いつの間にか、右を向いている首と

頬に感じる熱、痛み。


「あなたのせいでっ!!――」

甲高い声ともう一度空を切る音が聞こえる。

またぶたれるっ……!!

そう思って目を瞑ると、


「――やめて!!放してっ!!!」

ぶたれる代わりに聞こえてきた

麗佳さんの声。


「お前本当にいい加減にしろよ!!」


大声を上げる稜佑がまた先生たちに抑えられる。


目の前で激しく動くそれぞれを

働かない頭でただ呆然と見るだけ。


「大丈夫だったっ!?」

しゃがみこんで私を心配する紗依と美奈に

支えられて立ち上がる。


泣いて顔を手で覆った麗佳さんが

保健室の先生に支えられて校舎へ向かう。

伊東くんも複数の先生の後を追っていく。


最後に、掲げていたこぶしをおろした稜佑と目が合う。

先生たちに促されて背を向ける稜佑。


「稜佑っ!!」


名前を呼ぶと、足を止めた。