――「稜佑ー、その顔どうしたんだよー!」


朝、机で予習をしていた私は

稜佑の名前が聞こえて咄嗟に顔をあげる。


目じりの下に大きくガーゼを張る稜佑。


「ははー。

うーん、女の子怒らしたら怖いお兄さん出てきたわー」


いつか聞いたことのあるようなやりとりに

教室のほとんどが彼に視線を注ぐ。


「なんだそれ!ウケるな!」

「稜佑振られちゃったのー?」


一部のクラスメイトの声が行き交うなか

稜佑はへらっと愛想笑いをしていた。


思えば、

ああいう集まりの中にいつも伊東くんはいない。


稜佑は囲まれた中を抜けて、伊東くんの机へ。


「佐月ー」

泣きつくような声を出して

伊東くんと話す稜佑は恥ずかしそうにガーゼを触りはにかんだ。


何かあったのか心配だったけど、

伊東くんが優しそうに笑いかけてるから、

大丈夫なんだと思う。


始礼のチャイムが鳴って、

それぞれが席についているとき、

ふと伊東くんと目が合ったような気がして、

教科書を取るために廊下のロッカー目当てに教室を出たとき

話しかけられる。