「えー、稜祐帰っちゃうのー?」
「んー!明日なー!」
なんて聞こえたのは一瞬で、
私がヤバいと感じてる時は既に
「一緒帰ろうよ」
奴はすぐ私を抜くと、前に立って言った。
「嫌だ」
とっさに答えて桃井稜佑を抜くけど、
それが無駄な抵抗だなんてことは
私が一番よく知ってる。
あっさりとまた追い抜かれると
「まあまあ、青春しましょうよ」
わけのわからないことを言われて、
つい顔が歪む。
「そんな顔すんなって!
どっか寄って帰んない?って誘ってんだけど?」
その言葉を聞いてもっと顔が歪んだ。
かけていたメガネが少しずれても気にせず彼を睨んだ。
誰がアンタなんかと……!
私が睨んでいるにも関わらず
動じない彼は気味悪く笑うと
私に近づいた。
「香乃子ちゃん、
……メガネ、ずれてるよ」
頬に暖かい感触があったかと思うと
奴の手のひらがそっと私の顔を支え
もう片方の手が私のメガネを直した。
びっくりして、私はつい後ずさる。