「俺は当時幼かったから、

急に稜佑の母親が変わってどういうこと?とか思ってた。

バカだよね、稜佑に理由を聞いたりして。


今でも覚えてるよ。


その時稜佑が言った言葉をさ。


『お母さんね、俺のこともうわかんないんだって。

だから新しいお母さんが必要なんだって

父さんが言ってた』


稜祐の実の母親はさ、

その時既にもう稜祐を生んだことを含めた

今までの結婚生活の全てを無理やり忘れて、

思い出させようとすると発作が出たり狂乱するようになってた。


それをさもそうなった稜佑の母親が悪いように

あいつの父親と継母はあいつに説明したらしい」


伊東くんが

麗佳さんが変なのは家庭のせいって言ってた理由が

わかる気がした。


そんな両親からまともな子が育つわけないよね。


「その後の稜佑は、

しばらく自分に関心のない両親の気を引こうと必死に頑張ってたよ。

だけど何をやっても家の中は『麗佳、麗佳』。

俺らはそのまま成長していって、

ある日あいつは両親からの愛を諦めた。


それまでは認められたいために培った頭脳を

他人の興味を引くための道具として、

容姿とともに使用して親以外の全員の関心を集めていった。


それでも空っぽだって中学のときボソッと俺に言ったんだ、あいつ。


家では空気を読んで波風立てず、

外では不特定の人間で満たされもしない欲を埋めようとして。


それが春までのあいつだ」