「紗依が居てくれて嬉しいなあ」
しみじみと安心して自然と口角が上がる。
「最近香乃子がすごく素直で嬉しいなぁ!」
紗依はそういってくしゃっと笑う。
外のベンチに夏のぬるい風が吹くと
彼女の髪がふわっと揺れる。
うん、ここにね、
また茜と美奈が居てくれたらって思うんだ。
私も笑い返すと、
きっと紗依も同じことを思っているようだった。
大丈夫、だよね、きっと。――
――「香乃子、帰る?」
終礼も終わり、
紗依が私の席まで駆け寄る。
言わずもがな、
今日も茜と美奈とは帰りは別々みたいだ。
「日直だから日誌出しに行かなきゃ」
めんどうだなあ、なんて笑って、
紗依に待ってもらうことにして教室を出る。
「失礼します、日誌です」
「おう、そこ置いといてー」
「はい、失礼しました」
淡々とこなして職員室を出ると
放課後で昇降口に向かい帰宅する生徒で階段があふれている。
逆を行く私は人にぶつからないように気をつけながら歩くと、
「あ、山田さーん」
私の前に男子生徒の体が立ち塞がる。