「稜、佑……」
久しぶりに感じる彼の空気に
胸が跳ね上がる。
ああ、どうして、
あんなに不安だった気持ちも
何かが溶ける様に落ち着いていくんだろう。
彼をじっと見つめると、
何か言いたそうに、
口をもごもごさせ、でも噤んだ。
そして目を伏せて教室の中を移動し、
鞄を持って私に背中を向ける。
えっ、行っちゃうの……?
急に感じた焦りに、
自分は無意識のうちに
今泣いている私を見て
稜佑なら必ず気にしてくれると驕っていたことに気がついた。
何も言えず彼の遠くなる背中を見つめる。
もう少しで教室から出て行ってしまいそうになって、
またドアが勢いよく開いた。
「稜佑ー!まだぁー!?」
「はやくはやくぅ!」
甲高い女子の声が静かだった教室に響く。