自分の口からそんなことをアイツに伝えるのは

やっぱり嫌だ。


でも稜佑をよく知ってる伊東くんからの提案だし、

その方がいいんだと思う。


「あ、あの伊東くん」

久しぶりに口を開いて、


他人任せて申し訳ないけど……

と心で前置きをしてから


「もしよかったら、伊東くんから稜佑に話してくれないかな。

私の過去。

……稜佑の周り、
いつも人がいてなかなかはなしかけられなそうだからさ」

苦しい言い訳とともに顔の前で手を合わせた。


「……わかった。

山田さんがそれでいいなら、

俺がこの間聞いたようにあいつに話してみるよ」

伊東くんも承諾してくれて、

私はほっとする。


だけど、他人の口からとはいえ

自分の嫌な過去が稜佑に伝わることが

こんなに複雑な気持ちになるなんて。


「もうチャイム直前だ。

教室戻ろうか」


「う、うん……」


2人揃って早足で廊下を進む。


「朝から時間とってくれてありがとう」

伊東くんは私のほうを見てかすかに笑った。

「ううん!私も教室に入りづらかったから、

2人で過ごせて助かったの。

ありが……」


お礼を言おうとした時、

視線を感じて後ろを振り返る。


……デジャヴ、というか

もっと悪い状況かも。


「あ、茜…、美奈…おはよ――」

後ろにいた2人に挨拶しようとして、

2人は私を鋭く一瞥して横を通り過ぎてしまった。