「…………」
さすがに聞こえないわけがない距離に
ごまかせなくて、顔を向けると、
「髪上げてんの、可愛いじゃん」
既にすぐ横に来ていた稜佑が
私のまとまった髪を触る。
「……っ!!」
咄嗟に焦ってその手を払うと、
目の前の稜佑とそれに追いついた伊東くんが
びっくりしたように私を見た。
あの日以来、
どうしても触られたり、
触れてしまったりがダメになってしまって。
それは稜佑も例外ではなくて、
今も思わず振り払ってしまった。
「あ、ごめん……」
そう言って
何か言われたくなかった私は
外履きを手に、走って逃げる。
ああ、絶対変に思われただろうな。
でも、稜佑には特に触られたくない。
いつも女子を、美奈も、
触っているあの手で、
私に触れてほしくない。
「あ、香乃子ー」
靴を履き替えようとすると
後ろから3人がやってきて、
合流しなおす。
「……何か、あったの?」
走って息を荒げる私を不思議そうに見る3人に
また嘘をつく。
「遅刻しちゃまずいと思って急いだんだ!」
ダメだ、どんどん不快感と嘘で息が詰まる。