――「香乃子ちゃん!おはよー」
昇降口で悪魔を見つけ
朝から胃が痛くなる。
私は何も答えず素通りして
下駄箱の上履きに手をかけた。
そんな私の手は一回り以上も大きい手によって
動きを止められた。
「香乃子ちゃんはあいさつもできないのかな?」
私よりもずっと身長が高いくせに
わざと屈んで耳元で話してくる。
ぞわっと寒気が走ったのを実感して
私は彼から体を離した。
「そんな怖い顔すんなよ。
おはよう!ってクラスメイトが言っただけじゃんか」
アンタのそれは挨拶でもなんでもなく、
ただの嫌がらせでしょ!!
そう言いたくても
私は口を噤んだ。
「香乃子ちゃん、返事してくんないと、
俺言っちゃうよ……?」
にっこりと笑って私の前に立つコイツは
言わずもがな、桃井稜佑だ。
あの階段で話した日から数日、
私はこんな感じでちょくちょく付きまとわれている。