「……え……何?」
もう逃げ場もなく、
相手もその話題に触れる気満々みたいなので、
頑張って声を絞り出して対応する。
「いやー、昨日の山田さんさぁ……」
あぁ、なにか言われる!
暴力とか振られたら、どうしよう……!
そう思って、怖くて鞄の紐を強く握った。
「……面白かったよー!実は素はあんな感じなんだな」
想像と全く違うことを言われて、つい力が抜ける。
「へっ……?」
「いや、マジ最高。
照れ隠しかと思ったらガチで嫌がってたんだよな、あれ!
ごめんね、俺求められたら拒否んないしさ。
廊下でわざわざ盗み聞きしてたから、
山田さんが自分からは積極的になれないけど実は俺に興味がある子なのかと思って!」
内容は相変わらず自意識過剰でカスだが、
一応人の感情は読み取れるらしい。
「あ……まぁ、……はい、嫌でした。
しかも廊下の盗み聞きっていうのは申し訳なかったけど、私自身全く意図してなかったので」
「うん、だからごめんね」
どうやら責められたり脅されたりはしないようだ。
このまま誤解も解けて、穏便に済むならそれでいい。
「いえ……じゃあ、失礼します」
一緒に教室になんて向かいたくないから彼を抜かして階段を上り始める。