「よし、香乃子にも問題、世界史ね。
ローマの五賢帝時代、最大領土を達成したのは?」
「うぐっ……!」
お弁当の卵焼きを口に入れたばかりの私は
急に美奈からふられた問題に驚いてむせてしまった。
「っっ……!ごほっごっほ!!」
「わー!香乃子、大丈夫?」
紗依が背中をさすってくれて、
どうにかお茶で流し込む。
「ごめんー!急でびっくりした?」
美奈が申し訳なさそうに謝るから
すぐに否定する。
「違う違う!そんなんじゃないよ!」
……出された問題がわからなくて食べ物がつまったなんて言えないよ。
あやふやにごまかそうとしたものの、
「あ、香乃子、実はわからなかったんでしょー?」
「ごほっっ!!」
茜の言葉に図星をつかれてまた勢いよくむせてしまった。
「え!香乃子やばいよー!今の問題、今回のテスト範囲の中で基本で大事なところだよ!」
美奈が私をびっくりしたように見る。
「香乃子って頭いいんじゃなかったの?」
茜って本当勘が鋭い。
……ああ、ばれちゃった。
よく頭良さそうって思われるって自覚はあるけど、
実際はこの学校の中では真ん中から少し下くらいだと思う……。
「……あー、私この高校ギリギリだったくらいだから」
あははー、と苦笑いして打ち明ける。
「そうなのっ?意外!」
みんなにこんなにはっきり驚いたような顔されると結構こたえる。
「よく言われます……」
なんてしょげて、
ぼそぼそとおかずを口へ運んだ。
「……にしても、今の問題がわかんないってやばいよ!」
美奈は面倒見の良いお姉さんのように
私に注意を促した。
まあ私も勉強に取り組めばそんなにひどい点を取るわけじゃないけど、
今回は、そう、
「テスト期間って知らないで、勉強もしないで本に夢中になっちゃって……」
私はそう言って最後のおかずを飲み込んで、
背を丸めながらお弁当箱を片付けた。
この歳で勉強も忘れて本に夢中になるなんて恥ずかしいんだもん。