本を手にとってとぼとぼと歩く。
そして、みんなが勉強を頑張ってる中、
いつもと変わらずに本を読む彼に話しかけた。
「水野くん、おはようー」
申し訳ないけど朝なのにテンションの低い声しかでない。
テストどうしよう、なんて気持ちでいっぱいの私が彼の隣に立つと、
何故か驚いたような顔で私を見た。
……?
何で水野くんが驚いてるのかわからず、
何か言ってくれるのかと思って言葉を待った。
数秒だけお互い無言だったけど、
すぐに彼の口がぎこちなく動く。
「……お、おは……よ、う」
ああ、そうか。
彼はきっといつも誰とも朝の挨拶はしないんだ。
少し前の私がそうだったように。
だから、私がかけた挨拶にびっくりして、
それでも返してくれたんだね。
私は嬉しくなって
「うん、おはよー!」
さっきまでの沈んだテンションとは一変、明るくもう一度彼に挨拶を返した。
「あのね、本読み終わったよ!」
そう言って、机の上にそっと本を置く。
「……どう、だった?」
また彼に話題を繋げるように話してもらえて嬉しくて、
そして本の内容を思い出して、
私はその言葉を皮切りにべらべらと喋り出した。
「新作すっごい良かった!
結末はどんでん返しからのどんでん返しっていうか、やられたー!って感じだった!
私さ、最初あそこが伏線だって気付かなくて……――」
彼と挨拶出来たのが嬉しくてテンションが上がったせいか、
なんと朝のチャイムが鳴るまで
ずっと水野くんに本の感想を熱く語ってしまった。
うわ、やっちゃった。
いくらなんでもしつこかったよな……。