駅では知っている人に会うことはなく、
無事に学校へ着いた。
……というかそもそも友達いないし、
クラスの人からも認識されてないし、
かなり考えすぎだったな、私。
桃井稜佑が何を言っても、
きっと『山田?誰それ?』くらいになって、
すぐに話題にもならないはず。
いつでもどっかしらで話題になってる誰かさんとは違って、
私の話は誰も興味がないんだから。
校門を抜けて昇降口へ向かう間、
そんなことを考えていたら、少し気が楽になってきた。
悲しいけど、今だけは自分の存在感がないことに感謝してしまった。
少しずつ慣れてきた下駄箱の前で、
まだ新しいローファーを脱いで上履きを取ろうとした――
のに、
その手はある声のせいで空をかいた。
「やーまーだーさんっ!おはようー」
びくっと跳ね上がった私を見て、
満足そうにニコニコする、
目の前にいるこの人は、
察した通り、桃井稜佑だった。