我々日本政府は、世界よりいち早く”其れ”の捕獲に成功し、集められた精鋭達は研究を重ねていたのだ。”其れ”は限りなく地球上の生命体と同じ組織で出来ており、クラゲのような大きな頭にトカゲのような胴体、それはまるで、これまで人間が”空想”で作り出した、映画で見るような宇宙人のいでたちであった。頭と体の幾分かの箇所以外は無数の毛で覆われ、のっぺりした頭は人間の皮膚そのもので産毛が生えていた。そして、所在をつかめぬ理由は、自在に変化する細胞によってその形態を変化させ、カメレオンの様に周囲の物と同化していたからだった。”其れ”の動きは豹の様に素早く、その大きな頭はゴムに様に広がり、蛇が食事をするかのごとく人を飲み込む。そして、熊手のような爪で切り裂き、口内の無数の鋭い歯で噛み砕くのだ。皮肉なことか、その存在は人間にはありふれて見えるような、自分達の娯楽のために作り出した空想の産物の様そのものであった。

 我々は”其れ”を”X(エックス)”と呼んだ。

 それにより、我々は各国よりも先に”X”の駆除に成功し始めていた。全ての事が急速に行われていたため、まだまだ設備も整っておらず、今ある装備などを利用して考えられた方法でそれらは行われていた。消防のホースで水を撒き、奴らの生態を浮き彫りにして探すという、いとも単純な策だ。しかし、”X”の繁殖は我々の想像を絶する形で数を増やしており、その限りが見えない状態であった。彼らがどのように繁殖し、どこに正対しているのか、それはまだこれからの課題であった。

 が、あるひとつの発見により、政府は選択を誤ってしまった。 僕達が今やらされていることは、博士がよく言っている”摂理”に反する行為であり、これこそが人間としての”定義”から逸脱した行為であると思う。そして、その事が人が人を認めない理由として、あるいは、自己のみを生かすために他を殺めてもいい切欠のような物を作ってしまったように感じる。人間の全ての崩壊がこのためのような気がしている。この事が、これからの人類にどのような現実をもたらすのだろうか。僕は人類の存在が、この行為で変わってしまうのではないだろうかと感じる。何かに裁かれるのではないだろうかと。

 僕達は明らかに最初の選択を誤ってしまった。