都心より少し離れた山の山頂付近に設けられた『施設』は、単に食をなし生存するための目的で作られており、住民全て大人も子供も、そのための家畜を養い、野菜を育て、生きるための必要最小限の労働をしていた。寝泊りするだけの部屋が各個人のために作られており、建物事態は病院や学校のように共同で使えるトイレや風呂などが設置され、また各階に給湯室や談話室などもかろうじて設けられていた。元々は、どこかの企業の工場だったらしく、オプションのようなそれらの部屋はただ元の設備としてあったものを流用しているだけなのかもしれない。そんな気配りなどが、考えられたとは思えなかった。人々はやむなくそこへ集められた上に、希望しない労働を架せられ、不平が耐えなかった。ただ、僕が呼び寄せられた”此処”よりは比較にならないほど自由だった。労働時間以外は、ある程度好きな事が出来ていた。そして、何の責務も負わされずにいたからだ。

 そして、”施設”はもう1つあった。一般人の住む『施設』よりももっと山奥に入っていった所に、それは存在したのだ。僕達一部の特別な技能を持つ人間が、”其れ”に立ち向かうべく、奴らの生態研究のため集められていたのだ。様々な部門の学者や研究者、医師達、様々な能力と経験を有した者達だった。そして警察や自衛隊など、彼らを殲滅するための部隊も結成された。もちろん、それを統括するのは、これまでと同じ国家に残された政府の官僚たちであった。単に人口が減ってしまったというだけの事実であり、各国共に、人々が作り出した社会的な機構や”繋がり”はなんとか保たれていた。”バベルの塔”はまだ健在であった。