人が飲み干した紙コップに煙草の灰を落としながら、足を組み替える。

 「ところで、明日”彼女”を借りるわよ。」

 「何かあるの?」

今言った、”彼女”は、僕に対する皮肉だとすぐ解り、僕は少しムッとしてしまった。

 「”Φ”の細胞からクローンを創るみたいよ。前も失敗したんだけど。」 

 「そうなの?」

 「行き詰ってるのよ。遺伝子の組み替えも融合も、細胞そのものを操作してもダメ。また振出からやりなすことになったの。」

 「・・・・。要するに、人の手で造ろうとすると拒絶されるとなると、あとは自然の力を借りるだけ、か。」

 「『0』から創り出す方法でダメなら、今ある『1』を『2』にするしか手が無いのよ。まあ、他に人間そのものを改造するなんて手もあるんけど・・・・。」

 「なるほど。人間の倫理を犯す行為になると言うわけか。・・・・・・今も同じような気がするけど。認識の違いか・・・。」

 「・・・・・・・・。もうひとつ方法はあるわよ。『1』を『2』にする方法が。」

 「何?」

 「・・・・・・・言わない。」

 「何で?」

 「貴方嫌がるもの。」

 「?」

 「あたし達は学者と違って、納得いく理論や理屈を整えるんじゃなくて、どう具体的にしていくかって事なのよ。貴方も同じでしょう?実際に手で触って、事実を確認して結果を出してる。そうでしょ。」

 「彼女を妊娠させるって事か?」

呆れ気味に聞き返した。

 「あたしは『創る』人間、貴方は『治す』と共に『産む』事にも触れてる。人の領域を超えてるのは貴方の方かも。」

 「・・・・確かにそうかもしれない。」

 「貴方は面白いわ。そうやってすぐ深く考える。人間は元々壊す生き物よ。」