野口博士はどちらかといえば、ごくある研究者のようなイメージではない。ずけずけとモノを言い、人を食ったような態度で、とにかくせっかちな感じだ。そして、スタイリッシュな容姿とは裏腹に、行動的で大胆さを持っている。しかしながら、とても幅広い知識を持ち、且つ恐ろしいくらいの賢さを感じさせる。リーダーにはうってつけの人間なのかもしれない。34の僕に比べて少しくらい年下だろう、しかしながらしっかりしていて自我に満ちている。僕はどちらかというと人の話をよく聞き、あまり主張せず、納得できなくても反論をせず我慢してしまう方だ。彼女はそんな僕にイラついて、よく噛み付いてきた。しかし、なぜか僕に纏わり着いてくる。この実験についても、これまでの経緯も皆、彼女から聞かされた。ある種、いい情報源なのだ。おそらく、僕を利用するためのことであろうが。

 「もうしばらく出動は無いんだろう?」

僕はいつも飲んでいる天然果汁のジュースを口にして尋ねた。

 「そう聞いてるけど。こないだは、緊急なのよ。前々から、政府のお偉い方が研究の状況を見たいみたいとうるさかったのよ。現場にカメラなんか持ち込んで、大変だったらしいわよ。そんな費用何処から出てくるのか。」

 「見せ物だな・・・・・。」

 「っまね。喜んでたらしいわ。あの中空博士が、電話で嬉しそうに話してたもの。皆、何考えてるんだか。」

 「研究の目的って、結局中空博士しか知らないんだろう。」

 「うん。未だに教えてくれない。財政難だから、世界に売りつけるつもりなんじゃないかって、皆話してるけど。もうそんなの言ってる場合じゃないと思うんだけどねぇ。っま、お偉い方の考えることは未だに同じということね。相変わらず博士自体は、”摂理”とか”定義”とかってうるさく言ってるわ。」

 「何なんだろうね。博士の言う”摂理”って?」