僕がここへやってきた時には、既に彼女はここに居た。見た目は僕よりも少し年下くらいの女性だが、半透明の肌色がかった髪をしている。あとは全て人間と同じ容姿で、少し幼い面影の綺麗な顔立ち、身体も肉付きがよく運動に適した体だ。彼女は人間と”X”の遺伝子操作によって作り出された”人造のもの”であると聞かされた。”X”の遺伝子は限りなく人間のそれに近かったのだ。それを、知っているのは奴等を捕獲出来た日本政府だけだろうと言う。でなければ、極秘でこんなことはやっていたいはず・・・・・・。何のために彼女は生み出されたのだろうか。単に”X”を殲滅させる為だけではないような気がする。一体、何をしようとしているのだろうか。
 なぜ”彼女”が選ばれたのか。被験者がいた。この研究のサブリーダーであるあいつだ。あいつがこの研究のために自分の細胞を提供した。僕はあいつに好感を持てない。彼女を取り巻き、同じように模倣し群がっている連中も嫌いだ。力の強い者にくっついている事が、正しい事だと感じているのか。まるで医大にいた頃の連中と同じだ。
 あいつが率いる研究者どもは、彼女を”人”としてみなしていない。”人造人間”ではなく、彼女を”生物兵器”のように呼称する。それをしつこく連呼するのは、彼女と全く同じ顔をしたあいつだ。あいつは彼女を道具として扱い、”人”としては見ていない。人類のために戦う彼女を、何か目の仇のようにする。自分と同じ”もの”から産まれたはずなのに。僕は心がある以上、彼女をそんな風には見られない。心を持っているということは、触れ合い、分かち合う事だって出来るはずだ。ただ、目的のために産まれた(創られた)からといって、心を持つものをそこに押し込めることに、疑念を感じる。確かに、僕とあいつらのように同じ人間同士でも、そう出来ない事があることも知っているが。

 「何か・・・、気になる事があるんだったら、僕でよかったら聞くよ。何も・・・・・出来ないかもしれないけど。」

彼女は静かに微笑んだ。その目の奥には、やはり何か秘めるものがあった。少しうつむき、瞬きをした。

 「大丈夫。」