「ノックはしたよ。何回も。でも返事ないし、中から音は聴こえるしで、ドアを開けてみたらヘンテコなギターの音が聴こえてきたんだろ」
言いながら、蒼はまだ爆笑だ。
「ノックの音が小さかったんじゃないの?」
プイっとそっぽを向いてギターをベッドの上に乗せる。
もう弾かないからさっさと用件を言えばという遠まわしの表現だ。
「そんなに怒ることじゃないだろ?その素敵な音色をもっと聴かせてよ」
笑いながら言われるとかなりバカにされている気がする。
「蒼がいなくなってから弾く」
「……じゃあ歌って?」
最近よくこのリクエストが来る。
いつの間にか部屋に入ってきては歌って?の一言。
上目遣いで頼み込んでくる蒼は正直、姉の私でもキュンとする。
「な、なんで歌わなきゃなんないのよ」
「な〜んか、麻緋の声ってずっと聴いていたくなるんだよね」
そう言いながら蒼は私の前にドカッとあぐらをかいて、近くにあったクッションを抱きかかえるようにして座った。
床に座る蒼。
ベッドに座る私。
どうしても私を見上げるようになる蒼の視線はかなり上目遣いだ。