部屋の隅、クローゼットの前に立てかけられたそれは黒いケースに入ったギターケース。
新学期が始まってから、私は親戚にもらった入学祝でお値段もお手ごろのギターを買った。
雅紀くんのピアノを毎日聴いているうちに、今度は私も曲を作ってみたいと思うようになったからだ。
さすがに雅紀君のようにピアノを弾くのは無理だと思ったから、買うなら持ち運びもできるギターにしようと思ったのだった。
いまだにギターに慣れなくて、緊張しながら黒いケースからギターを取り出し、ベッドに腰掛け、足を組んでギターを肩から提げる。
チューニングもせずに先ずは弦の1本を指で弾く。
ベロンとひどく鈍い音がする。
「ひっどい音」
声のする方を見るとドアを開けたところにちょうどその男は爆笑しながら壁にもたれて立っていた。
「ちょっと、蒼!!開ける時はノックしてって言ってるでしょ?」
あの情けない音を聞かれたかと思うと、耳の奥まで熱くなりそうだ。