その途端、麻緋の声が途切れた。
やってしまった。
麻緋の声が聴こえなくなって、なんだか寂しいというか胸にぽっかり穴が開いたような気がした。
ずっとずっと聴いていたいと思ったその声を、自分が途切れさせた。
自分が止めたくせに、もっと聴きたい。
麻緋はピアノの音を少し小さく落とし、ドアを開けた。
俺の顔を見るなり怪訝な顔をし「何?」の一言。
あ〜……相当嫌われてるな、コレ。
嫌われることをした覚えは……沢山ありすぎてわからない。
だけどこんなにあからさまに嫌われるとさすがにヘコむ。
「何の用?」
再び投げかけられる麻緋の冷たい声にヘコみつつ、そんなことを悟らされたくない俺は、努めていつもの調子で軽く言う。
「いやぁ〜、さっき麻緋の歌聴こえてたから、生で直接聴いてみたいなぁ〜なんて思ってさ」
少し背を屈め、麻緋の顔色を伺うために首をかしげた。
いつの間にか成長し、麻緋を抜かした体格は、たまにこう向き合うと、『抱きしめたらすっぽり収まりそうだなぁ』なんて邪な気持ちを運んでくる。
というか、
今も少し思ってしまった。