さすがに俺も間接的にだけど、こんだけ聴いていると覚えてきて、鼻唄が歌えるようになったけど、自分のオンチはよくわかっているから歌うことはやめた。
だけど、春休みももうすぐ終わり、新生活が始まる頃……いつものように麻緋の部屋から聴こえる歌は……
相変わらずのピアノ曲と麻緋の歌声だった。
その歌声は、いつもの鼻唄ではなく、なんていってるのかはわからないけれど、確かに何かを歌っている麻緋の声だった。
隣の部屋で、しっかり聴き取れなかったけれど、それだけなのにもっと聴きたいという欲が湧いてきた。
惹きつけては離すことをしない引力のように耳に残る。
やばい。
直に聴きたい。
そんな欲さえも抑えることをさせない、そんな力が麻緋にはあった。
いや、単に俺が麻緋を好きだからかもしれないけれど……。
でもずっとずっと、それこそエンドレスで聴いていたい。
そんな気がする。
俺は、うざがられることを承知の上で麻緋の部屋のドアをノックした。