プロのピアニストよりもカレのピアノの方が上だった。


だから、彼が天才というのも問題はないんだけど……自分で言っちゃうところが私は気に食わなかった。



「麻緋サンにはわかんないかなぁ。俺の凄さ」


「ワカルワカル」


「こう見えても、俺って、1曲弾くごとに金もらっても良いくらいのレベルなんだよ?わかる?」

「うんうん」


「わかってないでしょ?」


「わかってますよ。キミは私なんかの前で弾くのにはもったいないくらい素晴らしい演奏家様です!」


「うっわ〜、その言い方感じ悪っ!」


「これが私だからね」

「それもそうか」




雅紀君はまた笑う。

チラリと見える八重歯。


このトキメキは多分、今しかないから。


今、この瞬間、雅紀君との時間だからトキメクんだって思うから。


だから、今が本当に大事なものなんだって思える。




ポロポロと溢れる涙は止まらない。



拭っても拭っても溢れては零れ落ちる。


「この曲、途中から雰囲気変わるでしょ?」