次に二人が向かったのは切り立った断崖絶壁からの勇壮な景観が有名な東尋坊で、自殺の名所と知られる場所でもあった。
海へと続く松林には、自殺を思い止まらせる看板があちこちにあった。
美恵と康弘はそんな松林の中の雪道を手を繋ぎながら歩き、東尋坊の断崖絶壁に辿り着いた。
眼下に広がる冬の日本海の波は荒々しく、海から吹き付ける冷たい風が美恵と康弘を出迎えた。
二人はまるでそんな風景の中に溶け込んでいるかのように見えた。
しばらく美恵と康弘が断崖に立ち尽くしていると、一瞬ではあったが二人してこのまま冬の日本海に飛び込んでしまいたい衝動に駆られるのであった。
でも、二人はそんな誘惑に何とか踏み止まり、来た道を引き返し駐車場の車の中で冷え切った身体を暖めた。
窓の外ではいつの間にか粉雪が舞い散り始め、夕暮れ時を向かえてようとしていた。
二人の身体と車のエンジンが暖まった頃、康弘は今夜の宿泊先である山中温泉へと車を走らせた。