医師や看護士たちの懸命の処置にも関わらず、美恵は出血多量のショックで明け方息を引き取った。
不幸中の幸いにも赤ちゃんの一命は取り留められ、何とか無事に産まれる事が出来た。
その事実を医師から告げられた娘の由美は、病院の廊下で目を腫らしながら大事で泣き続けた。
側でずっと見守っていた康弘も身体の振るえが止まらず、拳を強く握りしめ涙を堪えるのが精一杯だった。
『こんな事になるのなら自分は美恵と出会わなければよかった』と康弘は自分自身を責め、悔やんでも悔やみ切れなかった。
初めての自分の子供が誕生したが、美恵の死のショックでとても素直には喜べる状態ではなかった。
それでも産婦人科の医師から
「奥さんは最後までよく頑張りましたよ。ご自分の命と引き替えにしてまで、ご主人との赤ちゃんをお産みになられました。
息も絶え絶えの最後に、ご主人に伝えて欲しいと伝言をお願いされました」
妻の美恵の最後の様子を聞かされ、康弘ははっと我に帰るのだった。