毎朝登校中の電車の中で、
携帯電話から適当なニュースを読むリュウは
新聞には関心がない。
朝、リュウがダイニングへ行くと、
家政婦さんが用意してくれている朝食を前にして
信秀が神妙な顔をしていた。
「父さん、おはよう。
どうしたの。眠れなかったの。」
「ああ、龍彦、おはよう。
龍彦、お前、今日は学校か。」
「そうだよ。いつもの通りだよ。
父さんと一緒にタクシーで病院まで行き、
そこから学校へ行く。
父さんもリハビリしなくてはいけないんだよ。」
「ああ、そのことだが…
龍彦、今からニューヨークへ行かないか。」
いきなり父は想定外の言葉をリュウに向けた。
「今からニューヨーク… アメリカのニューヨークの事。」
「ああ。父さん、急に行きたくなって、
さっき空港へ連絡した。
11時の便に乗れそうだ。
龍彦が一緒に行ってくれたら嬉しいが… だめかな。
パスポートは12歳の誕生日に作ったから、
持っているだろ。」
パスポート…
そう、あの時は、いつかボストンへ行こうと言っていた。
だけど現実は…
父の再婚で、忘れられていた。
「あるけど… いきなりどうしたの。
行くならボストンでしょ。」
「いや、今回はボストンではなくニューヨークへ行きたいんだ。」
訳が分からないまま、リュウは急いで支度した。
必要なものは向こうでも買える、と言う父の言葉で、
愛用のスポーツバックに軽く収まった。
理由は… 飛行機の中でゆっくり話してくれるそうだ。
リュウは慌てて水嶋に連絡をいれ、
詳しい事は向こうから、と簡単に説明した。
そう言えば… 昨夜見たニュース番組、
アレが原因なのか。
あれから様子がおかしかった。
今朝のニュース、新聞… 読んでいない。
成田に向うタクシーの中で、
リュウは隣で、何か考え込んでいる父を見ながら、
そんな事を考えていた。