「私も聞いて驚いたけどね、
かずらは青森の孤児院、
のぞみは大阪の孤児院の前に捨てられていた子供らしい。
戸籍はそれなりにあるだろうけど、
美由紀が引き取ってからは何もしていないようだった。
どこの孤児院かははっきり分らないが、
多分、美由紀は私と結婚する事を前提に子供を引き取ったのではないか。
それなら書類を作りやすいだろ。
きっと孤児院には記録が残っていると思う。
とにかく2人は、私に気に入られ、
子供になればそのまま幸せになれる、と思い込んでいたよ。
そう、美由紀の計略のようだ。」
「父さんはそこまで分かっていて結婚したの。
僕がいたのに。」
「リュウのためですか。」
「まあ、龍彦に兄妹の楽しさを味あわせてやろうと思ったのも確かだが、
龍彦は初めからあからさまに反対していた。
言葉ではなく態度でね。
龍彦、そうだっただろ。」
信秀はすねているようなリュウに微笑みながら、話を進めている。
「私は一人が長かった。
母が先に亡くなり、
父が死んだのは私が30代に入った頃だった。
だけど、私のような一人っ子は人との付き合いが下手で、
親父は仕事で留守勝ちだったから、
何となくいつも寂しかった。
やっと出会えたソフィアでも、
あの時彼女は30歳、私は44歳。
それまで誰とも付き合ったことがなかった。
悩みを話すような友達もいなかった。
だけど、龍彦から聞いているだろうが、
ソフィアはすぐに死んでしまい…
あの時は自分の運命を恨んだ。
しかし、龍彦が助かり…
私は新しい希望が出来た。
しかし、龍彦を見ていて…
私の二の舞はしたくなかった。」
そんな話は一度も聞いた事の無いリュウだったが、
何となくその気持は理解できた。
一人っ子で母親が早くに亡くなり、
父親が仕事で忙しいなら、
寂しくても当たり前だ。
自分には、結構自由な時間が持てた父がいた。
登校しなくても、
一人でいても、
寂しいとは思わなかった。