「おかしいなあ。
父さんの大学の人なら、
父さんが寝たっきりって知っている…
おかしい。」


「じゃあ、お前にではないのか。」


「ないよ。
僕にチョコレートをくれる人などいない。
誰が持ってきたのだろう。

看護師さんなら分かるかも知れない。
聞いてくる。」



確かに、こんな立派な箱に入ったチョコレートなら
かなりの値段がするだろう。

しかし… リュウの家は親戚もいない。

可能性のあるのは父親の職場、大学関係者だが… 

それならなおさらリュウの言うとおり、

まだ意識が戻っていない、
と言う事は分かっているはずだ。

リュウのためなら、
何かメッセージを残していくものだ。

水嶋もその時になって不審物を見る目つきになっている。




「先輩、やっぱりおかしい。
誰も知らないって。
これ、毒が入っているのかなあ。

ほら、ポアロのミステリーにあったでしょ。

入院している人に毒を入れたチョコレートを送るの。

父さんは食べられないから… 
僕を殺そうとしているのかなあ。」



リュウの言葉は冗談に聞えるが… 

水嶋はますます深刻に考えるようになっていた。


もし、本当に毒が入っているのなら… 
ターゲットは自分たちだ。

さっきの石田たちの話ではないが、
今年の俺たちは強い。

いや、正確に言えばリュウがいるから、

俺とリュウがいれば何とかなりそうな雰囲気だ。

と、水嶋の頭はそっちの方へ行っている。



「リュウ、いいことがある。

あの詰め所の入り口に金魚の水槽があっただろ。

一匹だけ他の容器に入れて… 
このチョコレートを入れてみたらどうだ。

ほら、時代劇で見るだろ。
毒見だ。
そうすればこれが普通のチョコレートかどうかわかる。」



と、リュウはポアロのミステリーを口にし、

水嶋は時代劇を思い出しているが… 

どう考えても怪しい。




「うん、そうだね。
果物が入っていたプラスチックのパック、アレで良いよね。」


「ああ、一匹入れるだけだから十分だ。

モシ、推理的中で死んじゃったら、
埋めてやろうな。」