母親のことをソフィア、などと名前で言うリュウに

違和感を覚えた水嶋だったが、聞き流す事にした。



「しかし… 親父さんは… 」


「父さんは今60。
あいつらは父さんには似合わない。

だけど、父さんは分からないんだ。
上手く言えないけど… 僕は嫌いだ。

それだけだよ。
あいつら、家の中を走り回って、僕の部屋に入ってきた。

だから鍵をつけた。
もう部屋には入れないけど、

あいつらの声が聞こえると耳が穢れる。」


「じゃあ、リュウはアメリカで亡くなった

お袋さんのお墓など、行ったことが無いのか。」


「そう、出生証明書にソフィアと言う名前が書かれていただけ。」


「親父さんはアメリカのどこにいたんだ。」


「ボストン。
どこかの大学で日本文化を教えていた。

アメリカには3年いた。

僕が中学になり、
健康になったらボストンへ行ってみよう、とか言っていたのに、

あいつらが来て、父さん、すっかり忘れている。」


「そうか。
何も思い出が無い、と言っても、
そう言う話を聞いていたなら、

お袋さんの面影を求めたいよな。

しかし、現実には新しい母親と子供までいるから、

親父さんとしては覚えていても言い出しにくいのかもな。」



水嶋はいつの間にかリュウの話に感情導入している。



「しかしなあ、いくら母親違いでも、

親父さんの子供には違いないのだから、
少しずつ仲良くしたほうが良いぞ。」



どうやら水嶋は義母・美由紀が連れてきた子供は

信秀との子供と思っているようだ。

12歳と10歳、と言う事を知らないのだろう。



「あいつらは父さんの子供じゃあない。

父さんが再婚したのは僕が中学になった時、

あの人が連れてきた子供だよ。」



リュウは水嶋にそのことを説明した。