テニス部に入ってきても、
皆がしているような準備運動の要領が分からないのか、
ボサッとしている時が目立った。
しかし、誰も文句は言わなかった。
それだけ、その雰囲気が、
仕方がないか、と思われたようだ。
見ていれば普段の動作も、
テニス部内で見かけるように、
何かにつけててきぱきする態度ではなかった。
だから何となく目が行き、
さりげなく教えるような形で…
テニスは予想以上の進歩を見せた。
学年は異なるが、
今になればかなり近い存在だと自負していた。
リュウも自分が気に入ったのか、
テニス部の部長として、
自分の連絡番号だけは家人に知らせていたらしい。
父親とは会ったこともないが…
若い義母は、時々確認の電話を入れてくる。
それはお節介の類ではなく、
単にリュウが何も話さないからだと言う事は聞いていた。
とにかく水嶋は、
義母がリュウの事を心配している、と言う事は理解できていた。
会って話をした限り、
それほど悪い人には思えなかった。
しかし、
訳なんかなくても嫌いだ、と
はっきり言って座り込んだリュウ…
無性に訳が知りたくなった。
「親父さんが再婚を機に、
リュウを生んだお袋さんの写真を全部、
隠してしまったのか。」
さすがに水嶋はリュウのように座り込むことはしないが、
膝を折って、
なるべくリュウと同じ目線になるようにしている。
「初めから無かった。
父さんはアメリカでソフィアに会って、
結婚して僕が出来た。
だけど妊娠6ヶ月の時に事故で死んだ。
その時、腹にいた僕は…
未熟児だったけど死ななかった。
一年後、
僕がまともな赤ん坊になった時に
父さんと一緒に日本に戻って来た。
僕はずっと父さんと二人が良かったんだ。
あいつらは僕から父さんを盗った。
許せないでしょ、先輩。」