こんな話を、リュウはしたことが無かった。

水嶋がかなりリュウの事を知っていると言っても、
義母と折り合いが悪い、と言う事ぐらいだ。

水嶋は詳しく詮索しなかったし、

リュウも話さなかった。


しかし今、リュウは初めて空手の技を使い、

我流試合ではないが、
男たちと立ち向かい、

自分は強い、と実感している。

その満足感から口が軽くなっているのだろう。

山崎とまともに会話したことがない間柄、と言う事も

完全に頭から消えている。

が、そこまでだった。

急に面倒な気がして来た。


リュウは運ばれたものを言葉少なにムサボリ、

皿が空になった頃、
おもむろに立ち上がった。



「山崎、ご馳走様。
こういうのも悪くないな。

じゃあ、行くよ。
お前、テニス、頑張れよ。」


「ああ… あのな、たまには学校で話しかけても良いか。」



わざわざそんな事を言う山崎の気持が分からなかったが… 

リュウが意識していないだけで、

周囲の者は、リュウのことを話し辛い奴、と思っている。

リュウが学校で親しげに話をするのはテニス部の部員とだけ。

他のクラスメートが話しかけても、

大抵は、挨拶はしてもすぐ無視するような態度をして

その場から離れてしまう。

何を考えているのか分からないところがあるが、

気になる存在だ。

リュウの、そのモデルにでもなれそうなルックスも… 

幼い時はそれが災いしたが、

今では、テニスも上達し、
そのクールさも影響しているのか、

学内では密かに【テニスの王子さま】式に

あこがれの眼差しで見ている女生徒も多いのだ。