「リュウは…
リュウも才能があるじゃあないか。
プロになりたいとは思わないのか。」
「思ったことは無い。」
「家の人は…
期待しているんじゃあないかい。
ウチは母がテニスが大好きで…
学生時代まではプロになりたかったらしい。
ああ、なかなか上手かったらしい。
だけど、どうしてもプロテストに受からなかったから、
テニス・スクールのコーチをしていた父と結婚した。
それからは子供に期待、と言うわけだけではないかも知れないが、
とにかく僕と姉は小学校へ入学と同時にテニスを始めた。
姉は今イギリスへ留学している。
だけど、この間…
まだ親には言っていないが、結婚したい相手が出来、
テニスへの情熱が薄れている、とか言っていた。
だから僕が… と言うところさ。
まあ、僕は今のところテニスが好きだから、
そう言う人生にかけてみようと思っているんだ。
勿論学校の勉強は頑張る。
テニス馬鹿、とは言われたくないから、な。」
「将来の目標があるだけで羨ましいよ。
僕は… 何もない。」
「だけど… ご両親はなんと言っているんだい。
お父さんは何をしている人。」
「父は大学で国文学を教えている。
時々は他所へ講演に行っている。
子供の頃は時々連れて行ってもらっていたが,
中学になったら、まるで面白くない。
だからテニスに打ち込んだだけさ。」
「じゃあ、お母さんは。」
「父が再婚した。
だけど僕は嫌いだから話などしたくない。」
「フフフッ、なんか子供みたいだな。
まさか、連れ子もいるのか。」
「ああ、女が二人。
キャーキャー、甲高い声を出す、うるさい奴らだ。」
まさか4年間も同じ態度で来ているとは、
さすがに山崎も想像しなかったらしく聞かなかった。