「リュウ、またこんなところをふらふらして…
ねえ、山崎君、退部したって本当なの。」
北村かおりだ。
彼女はここから数分のところにある公団住宅に母親と住んでいる。
「らしい。」
「らしいって、山崎君がいなくなったら男子部、大変なんじゃあないの。
リュウと山崎君の2人であのチームを支えていたようなものでしょう。
今日、うちの部長がそんな事言っていたわよ。
まあ、女子部はともかく、
男子部は期待があったもの。」
「まだひとつも試合してないのに、
お前たち、失礼だな。
一応対策は考えているから、
何とかなるんじゃあないか。」
男子テニス部員以外とはあまり話しをしないリュウだが、
何故かこの北村かおりとは話す。
同じテニス部、と言っても、はっきり言って
女子テニス部員の名前や顔も興味が無いぐらいのリュウだが…
が、その時になってリュウはどこからか
鋭い視線が注がれているのを感じた。
容貌がハーフだからか、
幼い頃から人に見られるのは…
慣れた、とは言わないが、良くある事だった。
しかし今回は…
とても嫌な気持ちのものだった。
かおりと話しながら周囲をさりげなく見てみたが、
それらしきものは確認できなかった。
それで、ここは気分が悪い、と感じたリュウ。
もう話をするのも面倒になってきた。
だからこのまま、もう一度新宿の方へ戻ることに決めた。
リュウは義母が水嶋に頼んだ、
着替えの入った
スポーツバッグをつかんで駅に向って歩き出した。
「リュウ、ったら。」
後ろでかおりの声がしているが無視して歩いている。
かおりとはただの同級生で同じクラブ、というだけの間柄、
何も干渉される覚えはない。