「慣れだよ。
今、相手をした僕の感じでは、
お前の球筋、吉野さんと似ていた。
頑張れば吉野さんのような選手にだってなれる。」
リュウはお世辞などとは無縁、と言う事はわかっている石田。
その言葉を真摯に受け取っている。
「そうか。他、何を気づいた。
なんでも言ってくれよ。
俺、少しでも強くなりたい。」
「うん… 慣れたら相手の足の向きで、
ボールがどの辺りに来るか、察知するんだ。
とにかく打てるボールは絶対に逃すなよ。」
水嶋が2年の秋、部長になった頃から、
学校対抗試合になると、
リュウはいつも部長の水嶋とダブルスを組んでいる。
そうすれば他のメンバーが総崩れしても、
そのダブルス組だけは勝てる、
全員負けは免れる、
という方針で来ている。
勿論個人対抗戦でも、
リュウは結果を出しているから、
その実力は誰でも分かる。
今まではそんなリュウと山崎の存在で、
曙高校テニス部の名前もよく取りざたされていたのだが…
「リュウ、今日はさっさと家に帰れよ。」
練習が終わり、皆で駅まで来ると、
一駅でおりる水嶋がリュウに声をかけた。
「・・・」
さっさと帰れ、と言われたが
リュウは一駅手前でおりている。
用があるわけではないが…
何故か真っ直ぐ家には帰りたくなかった。
父の帰りは夕食の頃、
まだ数時間は帰らないだろう。
リュウのおりるところは静かな住宅街、
コンビニぐらいはあるが、
大抵は一駅手前の、
この駅前の大きなスーパーで買い物をする人が多い。
車を運転する美由紀もそうだ。