「先生、俺… 無理ですよ。
シングルなんて…
一発で負けて、迷惑を掛けてしまう。」
石田が貼られた紙を見て叫ぶような声を出している。
「石田、落ち着け。
お前は最後に出ることにすれば良いさ。
ダブルス3、シングル3で、先に4勝すれば良いだけだ。
リュウは山崎と同じく1年から出ているが、
斉藤と布施、お前たちは山根と橘としっかり呼吸を合せておけよ。
水嶋、これでいけそうか。」
「そうですね。
なるべく石田まで回らないように、
他でカバーするのは妥当でしょう。
しかし、石田、いつまでもそんな事を言っていないで実力を付けろよ。
来年は3年だぞ。」
水嶋が部長らしく話をまとめた。
そう、このテニス部、
調子は出てきたが、
例年、部員が思うように集まらない。
野球部とサッカー部はやたら人気があるのだが、
特に男子テニス部は部員が少ない。
今も、まともに試合に出れる3年は5名、
2年にいたっては、部員は8名いるのだが、
実践力になるのはせいぜい4名。
だから、山崎の退部でこうして混乱が始まったのだ。
「リュウはいいなあ。
俺もお前のような才能が欲しいよ。」
練習が終わり、
汗を拭きながら着替えをしているリュウのところに石田が来て、
落ち込んだ声を出した。
中学・高校と同じクラブ、気心は知れている。
そして今日は、
部長の水嶋と組んでいるリュウは、
シングルに決まっている3年生2人と
石田の相手をしていたのだ。
なぜならばリュウは彼らより実力があり、
試合が迫って来ると練習相手に回っている。